【漫画】浅野いにお読み切り「TEMPEST」感想

(©『TEMPEST』浅野いにお)

こんにちは、どれいです。

今週のスペリオールの浅野いにお氏の読み切り漫画「TEMPEST」の感想です。

「TEMPEST」は高齢化が止まらぬ近未来、85歳以上が「最後期高齢者」と名付けられ「高齢者特区」に入居させられる世界を描く物語。浅野が綴る人権の黙示録だ。

https://natalie.mu/comic/news/294867

スポンサーリンク
レクタングル(大)

老人の「人権」を剥奪した未来

もう、概要だけで賛否両論というか否のほうが多くなりそうなテーマですよね。でもここで思考停止して「不謹慎だ!」「先人を敬え」と宣う人たちの心にはどちらにせよ届かない内容だと思います。

少子高齢化によって後期高齢者に続く、「最後期高齢者」制度が決議された未来。

85歳以上の老人は「人権」を返納させられ、唯一生活を許される特区で5年間の生活を送ることを義務付けられる。

90歳を迎えた時に試験を受け、満点で合格できれば「国民の模範」として人権を取り戻すことができる。しかし、作中の老人たちが言う通り、思考力も記憶力も落ちた世代で満点の合格は極めて困難であり、事実上「自死サービス」を選ぶか、人権を失くしたまま放り出されるしかない。

主人公の橘さんは頭も身体もしっかりしており、特区の職員からも老人検定合格の太鼓判を押されるほどだったが、試験内容の「最後期高齢者制度に賛成である」という踏み絵にも似た設問を是とはできず不合格。行政や福祉サービス、金銭の所持すら許されぬまま特区を出る。

街には同様に全裸のまま路上生活を送る老人の姿が。一般市民は気に留める様子もなく、もう彼らの目には老人は完全に人間として映っていない。

橘氏は昔別れた妻との思い出の桜を見に向かうが、ベンチに座っているところを行政側のロボットに咎められる。公共施設の使用を即座にやめなければ「処分」するという。

橘氏はベンチから動かず、ただ一言

「それでも私は人間です」と主張。

彼は射殺され、ロボットの搭乗者は別れた妻であることが判明する。

今の社会の在り方を受け入れて生きることを選んだ彼女と、あくまで自分に嘘をつくことができずに死んだ橘氏。

「人は善意に取り憑かれている。

吹き荒れてしまった価値観の嵐に飲み込まれるしかないのか?」

そんな橘氏の別れた妻へ宛てた手紙で物語は終わった。

感想

今の社会問題を風刺したショッキングかつ大胆な作品でした。

このテーマは遥か昔に藤子・F・不二雄先生も取り上げていました。「定年退食」という短編漫画です。


気楽に殺ろうよ: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 2 (2) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

少子高齢化によって世界的な食料危機に陥り、配給制となった未来。一定以上の年齢の老人には「定員」制度が導入されている世界。こちらは試験ではなく抽選で選ばれた少数の老人のみ生きる権利を与えられています。浅野いにお先生も他の作中でドラえもんパロをやるくらいだからきっとご存知かと思います。

老人を切り捨てるという国の在り方は冷酷であるように映るだろうが、総理の言う通り日本の未来は「シリアス」。倫理や道徳は時代によって変化してゆくというのもどこまでも現実的。突然ゾンビが大量発生したり、隕石が地球に衝突するようなフィクションじゃないのが一番怖い。

この2作に共通しているのは、主人公の老人が「善良な人間」であること。主人公の橘氏は理知的で聡明である。だから周りの老人にも頑張って試験に合格しようと前向きな空気を作ろうと努めている。だから理不尽な世界に振り回される気の毒な被害者として読者に同情されるだろうが、逆だったらどうだろうか?

この作品が、店員に尊大な態度で怒鳴り散らし、高速道路を逆走し、友人との雑談のために毎日病院へ通って医療費をいたずらに圧迫するような所謂「老害」と呼ばれる人種にスポットが当たっていたら受け取り方は全然違っていたように思う。むしろ勧善懲悪のような話になって「ざまあみろ」と思われていたらギャグである。「操作された情報に容易に流される危さ」という作中のテーマはそういった意味での皮肉なんだろうか。ブラックスカッとジャパン。

敬うべき年配の方は数多くいる。これは確かだ。でも、世の中にはハラワタが煮えくり返るようなどうしようもない年寄りが多いのも確か。ただ、「老人」というカテゴリに限らず、男女、人種、国籍を問わず存在する問題なのでそもそも「老人を無条件に敬うべき」か「老害は無条件に死ぬべき」の極論がある限り絶対に相容れない。これはどちらかの意見が間違っているのではなく、互いに一歩も譲らず、歩み寄ろうとしないせいではないだろうか。

善良でありながらも人間らしい弱さをみせた「定年退食」の主人公は最後は吹っ切れている。「席を譲ってやろう。我々の席はもうどこにもないのさ」ご自身も当時はすでにご高齢であったF先生の言葉は重い。橘氏は席を譲ることはできなかった。

ただ、あれだけ合理的な社会なら街中でバラバラ射殺は止めたほうがいいかと。お掃除大変でしょうから、確保して別の施設でって感じではどうでしょうか。

橘氏を汚物扱いした公園の母親の目には、人の形をしていても彼はもうすでに人には映っていなかったのだろうか?


ビッグコミックスペリオール 2018年17号(2018年8月10日発売) [雑誌]


デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション (7) (ビッグコミックススペシャル)

スポンサーリンク
レクタングル(大)
レクタングル(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。